オリンピックシャフトの選び方について解説させていただきます。
トレーニングの機材において最も汎用性が高く、多くのトレーニング施設やホームジムで採用されるオリンピックシャフトですが、昨今は国内外問わず多くのメーカーからオリンピックシャフトが販売されているため、一目見ただけでは違いがわからず、選定に困る方が多くいらっしゃることかと思います。
高価なバーベルなら間違いないだろうと自身の用途に合わないオリンピックシャフトを購入してしまう方や、安い代わりに使いにくいものを購入してしまうという方など、購入後に後悔をする方が後をたたない為、これからオリンピックシャフトの購入を検討されている方は是非ご参考ください。
オリンピックシャフトとは

オリンピックシャフトとはバーベルのことであり、正確には握る部位をシャフト、プレートを付ける部位をスリーブと呼びます。
バーベルのスリーブ部分の太さには50mmのものと28mmのものがあり、国内では前者がオリンピックシャフト、後者がスタンダードシャフトと呼ばれています。
オリンピックシャフトとスタンダードシャフトの大きな違いは後述するスリーブの回転機構の有無であり、回転機構を搭載しないスタンダードシャフトは使用感において大きくオリンピックシャフトに劣ります。
オリンピックシャフトの比較ポイント
重さと長さ


重さ20kg、長さ220cmのものが最も一般的なオリンピックシャフトとなります。
重さが15kgもしくは10kgの長さが短いタイプのオリンピックシャフトも存在し、それらは部屋が狭い場合の取り回しが良かったり、女性やトレーニング初心者が軽い重量からトレーニングに使用しやすいというメリットがあります。
20kg未満のオリンピックシャフトはスリーブもしくはシャフト部分が短くなるため、プレートを付けることができる枚数が減るというデメリットがあります。例えば15kgのオリンピックシャフトであるとスリーブ部分が10cm程度短くなります。
またシャフト部分が短いものについては通常のラックでは幅が足りずに使用できないというデメリットがあるためそれぞれ注意が必要です。
シャフトの径としなり
オリンピックシャフトのシャフト部分の径は29mmと28mmのものが一般的です。
29mmはパワーリフティング用とされており、28mmと比較して断面積が広いため、しなりが少ないです。しなりが少ないことで、スクワットやベンチプレスにおいてオリンピックシャフトの端が振れにくく、余分な負荷がかからないため、それらの種目が行いやすいというメリットがあります。
28mmはウェイトリフティング用もしくは多目的用とされており、29mmと比較するとしなりやすいです。しなりが大きいことのメリットは、デッドリフトやクリーンのようなクイックリフト種目を行う際に、両端がしなることで握っているシャフト部分が床から少し浮く状態となるため、引き上げやすくなるという点です。
パワーリフティングの公式競技では29mmの使用が一般的なため、競技者の方はそれによる練習に慣れてしまうことはデメリットともなります。
また20kg未満のオリンピックシャフトについては25mmの径のものが一般的であり、しなりが強いことや、女性や手の小さい方は握りやすいという特徴があります。
今回、以下のような方法で、アメリカンバーベルの代表的なオリンピックシャフトとROGUEのステンレスオハイオパワーバーの荷重によるしなりを測定しました。

しなりはオリンピックシャフトの地面からの高さが荷重でどれだけ変化したかをメジャーで測定しています。高さの測定部位はシャフトとスリーブの境目部分になります。(手作業での計測のため、多少の誤差がある場合がございます)
プレートはアメリカンバーベルの厚さ44mmのオリンピックラバープレート20kgを用いています。
ラックからスリーブまでの距離を35cmとしています。

以下が測定結果となります。(引張強度については次の項目でご説明いたします)

こちらの結果から29mmと28mmのオリンピックシャフトについては優位にしなりの差があることがわかります。
またROGUEのパワーバーはパワーリフティング用バーベルの中でもエレイコのバーベルと並び上位のしなりにくさを誇るとされていますか、アメリカンバーベル製のパワーバーについても同等のしなりにくさがあることが示唆されています。
ただし今回は静止した状態での測定の為、実際の動きの中で生まれるしなりとは異なる可能性があります。
また以下はプレートを装着している最中の映像になります。29mmと28mmのオリンピックシャフトの荷重時の挙動が違うのがわかるかと思います(若干カメラの角度が変わっています)。
引張強度(Tensile Strength)
オリンピックシャフトには引張強度と呼ばれる耐久性の指標があります。
これはオリンピックシャフトを破断させるまで荷重を加え、破断手前の最大荷重を測定し、その荷重を断面積で除した値であり、簡潔に説明するとギリギリ壊れない荷重の数値です。
大手のフリーウェイトメーカーのオリンピックシャフトは必ず引張強度の測定をしており、19万PSI〜22万PSIの間に収まるものが過半数を占めております。
よくある間違いとして、「引張強度の数値が高い製品ほど品質が高い」というものがあります。引張強度はシャフト部分の「硬度」と相関関係があり、基本的には硬いものほど引張強度が高いということになります。
一方でオリンピックシャフトにおいて重要なのは金属の展延性です。展延性とは物質に引っ張る力を加えた際の変形する能力を表し、基本的に硬度が高いほど展延性は低くなります。
つまり硬度の高いシャフトというのは展延性が低いため、大きな荷重が加わった場合に破断する可能性が高くなります。トレーニング中にシャフトが破断すれば大きな事故になるのは容易に想像できます。
逆に展延性の高いオリンピックシャフトというのは、大きな荷重が加わった場合でも破断せずに曲がります。バーベルが曲がってくれれば大きな事故は避けることができます。
またオリンピックシャフトの実用において重要なのは、150kg、200kgといった重量で何百回リフティングしても壊れずにバーベルがストレートに戻ることで、そのためには展延性が必要です。800kg、1000kgといったプレートを載せて静止状態で耐えることはあまり重要ではありません。
こういった理由から、アメリカンバーベルではほとんどのオリンピックシャフトの引張強度が19万PSIで揃えられています。
5kgバーベルや10kgバーベルのシャフトは引張強度が小さくなりますが、これはテクニック練習用や女性用など、想定される使用重量が小さくなるためです。10kgバーベルに300kgを積むなど不適切な使い方をすれば当然シャフトが折れてしまう可能性があるので、用途に合ったバーベルを選び、バーベルに合った使い方をしましょう。
ローレット(ナーリング)

ローレットとはシャフトにおけるザラザラとしたエッジの加工が施された部分のことで、滑り止めの役割があります。
一般的にパワーリフティング用のオリンピックシャフトについてはエッジの凹凸が激しく、滑りにくいという特徴があります。ただし滑りにくい反面、手のひらを傷つけやすいというデメリットがあります。(アメリカンバーベル製のパワーバーについてはこれに該当せず、エッジが細かくマイルドな手触りになります。)
ウェイトリフティング用や多目的のオリンピックシャフトはパワーリフティング用と比較して、エッジがマイルドであるという特徴があります。
またオリンピックシャフトには、中心にローレット(センターローレット)があるものとないものがあり、スクワットや、クリーンにおけるキャッチにおいて効果を発揮するため、それらのトレーニングや競技を行う方は、あるものを選ぶようにしましょう。
シャフトのマーク位置
オリンピックシャフトには握り幅の目安となるマークがついています。
パワーリフティング用については81cm間隔、ウェイトリフティング用については91cm間隔となります。
また多目的用と呼ばれるオリンピックシャフトには、81cm間隔と91cm間隔の2箇所にマークがついているものもあります。
競技者の方はそれぞれの目的に応じた商品を選ぶようにしましょう。

シャフトの防錆加工
オリンピックシャフトは錆を防止するために様々な表面加工を施しており、それらの防錆耐性やグリップ感、耐久性についてご紹介します。
ロウスチール
ロウスチールは表面加工が施されていない生の鋼鉄です。錆に最も弱い為、こまめな手入れが必要となります。
しかし最も手に馴染み、グリップ感があるとされ、国際パワーリフティング連盟の世界大会で使用されるオリンピックシャフトは全て表面加工のないオリンピックシャフトが使用されます。
硬質クロム
硬質クロムは見た目がシルバーの綺麗な光沢を持つ金属メッキになります。
摩擦に強く、長期間見た目の美しさを保つことをでき、多くのメーカーのオリンピックシャフトの標準的な加工となっています。
手触りがツルツルとしてグリップ感はやや弱いですが、手触りが優しいという特徴があります。
黒色亜鉛
黒色亜鉛は見た目が黒色の金属メッキになります。
硬質クロムに比べ、錆に対する強さや、グリップ感の強さがあるという特徴があります。ただし経年劣化による変色や摩耗しやすいという弱点があります。

セラコート
セラコートは軍用銃火器などに用いられるのと同様のセラミックのコーティングであり、圧倒的な防錆、耐腐食性能があります。
また多くの色やデザインを選べることから近年、米国ではとても人気があり、ジムに差し色として使用してもオシャレです。
またグリップ感についても先述した金属メッキに比べ、良好です。
ただし衝撃に弱く、金属などの硬いものに接触するとコーティングの欠けが発生する場合があるため、注意が必要となります。
ステンレス
ステンレスは加工ではなく、材料になりますが併せてご紹介いたします。
ステンレスはセラコートについで高い防錆、耐腐食性能があります。またグリップ感についてもロウスチールについで良好であるとされています。
一番、手間がかからず長期的に見た目を美しく保てる材質となり、個人的には最もオススメの材料になります。
オリンピックシャフトの防錆実験
実際にロウスチールを除く上記の加工を施したオリンピックシャフトの防錆の実験を行いました。

今回実験に使用したオリンピックシャフトは左から順にセラコートマンモスパワーバー(セラコート)、エリートパワーバー(ステンレス)、グリズリーパワーバー(硬質クロム)、トレーニングバー(硬質クロム)、エントリートレーニングバー(硬質クロム)、カリフォルニアバー(セラコート)、ROGUE 10KG Jr.バー(黒質亜鉛)になります。
オリンピックシャフトに濃度15%の食塩水を噴霧し、10日間の変化を観察しました。
24時間が経過し、水分が乾燥して塩の結晶が付着した状態となりました。

7日が経過し、エントリートレーニングバー(硬質クロム)に錆が浮かびました。他のオリンピックシャフトについては塩の結晶が付着した状態から変化はありません。

その後、10日を経過するとグリズリーパワーバー(硬質クロム)についても錆が浮かび上がり、最初に錆が浮いたエントリートレーニングバーついては更に錆が増えていました。10日目については降雨で湿度が70%を超えていたせいか、塩が結晶状から水滴となっていました。


このことから前評判通り今回使用したものの中では硬質クロムが一番錆に弱いことがわかりました。
オリンピックシャフトのスリーブ防錆加工
あまり気にされる方はいませんが、スリーブについても錆を防止するための表面加工が施されていますので、ご紹介します。
硬質クロム
金属との接触に強いことや、滑りがいいことから、プレートを着脱するスリーブ部分の表面加工に向いています。
多くのメーカーで採用される加工となり、アメリカンバーベルのオリンピックシャフトのスリーブについても全て硬質クロムとなっています。
セラコート
セラコートはシャフトの表面加工の項目でご紹介した通り、硬いものとの接触に弱いです。
そのため多くの商業施設で見かけるセラコート加工のスリーブの製品は、プレートとの接触によってコーティングが削れてます。
採用しているメーカーも少ないです。
ステンレス
硬質クロムと比較し、耐久性も防錆の性能も高いです。
最近、登場したばかりのスリーブの材質になるため使用感などは不明ですが、シャフトで使用した場合の性質から考えると着脱の滑りが悪いのではないかと個人的には思っています。
オリンピックシャフトのスリーブ回転機構
スリーブ内にはプレートの回転による抵抗を抑える回転機構が内蔵されています。
回転機構には大きく分けてブッシングとベアリングの2種類があり、ベアリングの方がよく回転し、動きに対して追従しやすいです。
ウェイトリフティングの種目のような速度の速いトレーニングにおいては、ベアリングの方が適しているとされており、ウェイトリフティングの競技用オリンピックシャフトについては、基本的にベアリングが採用されています。
またパワーリフティングの種目や通常のトレーニングにおいては適度に回転抵抗がある方が使いやすいとされており、多くのオリンピックシャフトにはブッシングが採用されます。
スリーブの長さ
一般的な20kgのオリンピックシャフトはスリーブのプレート装着部分の長さが41cm~42cmになり、パワーリフティングの国際規格のものになると43cmと長めに作られています。

スリーブが長いことによるメリットは2つあり、一つはより重い重量のバーベルをセットすることができることです。例えばパワーリフティングの25kg競技用プレートは厚さが27mmであるため、1セット程度、つまり50kg重くプレートをセットすることができます。ただしパワーリフティングの競技用プレートを用いた場合はいずれにしても700kg分のプレートをセットできるため、これについてはあまり考慮する必要はないかもしれません。むしろオリンピックシャフトにセットできるプレートの枚数は、プレートの厚みに大きく依存するため、そちらに注意が必要となるかと思います。
もう一つのメリットはプレートが内側に入ることでしなりが少なくなるということです。しなりの項目で試験したROGUEステンレスオハイオパワーバーとアメリカンバーベル製のパワーバーでは差が出ませんでしたが、一般的にはスリーブのプレート装着部分が長くプレートが内側に入るほうがしなりにくいという傾向があるようです。
一方、スリーブのプレート装着部分が短いと、プレートがラックと接触しやすくなるというデメリットがあります。これついてはカラーを一つ挟むなどすると解消することができます。
スレッディングスリーブ
スリーブにはスレッディング(細かい溝)が施されたものがあり、現在販売されている多くのオリンピックシャフトに採用されています。
スレッディングにより、摩擦が減りプレートの着脱がおこないやすくなるというメリットがあります。
プレート側にもスレッディングの加工がある場合は、独特の着脱音が鳴るというデメリットがあり、ホームジムにおいては注意をする必要があります。
以下はスレッディングスリーブに、スレッディングがないラバープレートとスレッディングのあるバンパープレートを装着した際の音の違いを撮影したものになるため、ご参考にされてください。
おすすめのオリンピックシャフト
ここまで様々な比較ポイントを解説しましたが、これらを踏まえてアメリカンバーベルのオリンピックシャフトの比較表を作成しました。ご自身のトレーニングの用途に合わせて最適なバーベルをお選びいただければと思います。


パワーリフティング競技者向けのオリンピックシャフト
ROGUE FITNESS ー ステンレスオハイオパワーバー
パワーリフティング競技者向けのオススメ製品はいずれもシャフトがステンレス製のメンテナンスフリーのものになります。金額やしなりにくさなどほぼ同スペックとなりますが、大きな違いはシャフトのローレットのエッジの強さになります。ROGUE FITNESS製のパワーバーの方がエッジが強く高重量のトレーニング、特にデッドリフトにおいては保持しやすいため、ハイレベルな競技者にはこちらを推奨します。アメリカンバーベル製のパワーバーについては手触りがマイルドになりますが、エッジが細かく皮膚に対して十分な表面積があるため、十分な滑りにくさがあります。実際に私は240kg程度までのデッドリフトで使用しましたが、特にグリップが外れるなどの問題はありませんでした。

ウェイトリフティング競技者向けのオリンピックシャフト
ウエサカ ー U型ウェイトリフティング男子競技用バー
ZHANGKONG ― ZKC Weightlifting Barbell
アメリカンバーベル ー ステンレスベアリングバー(競技仕様)
いずれも国際的なウェイトリフティングで用いられる、シャフト径が28mmのベアリングが採用されたオリンピックシャフトになります。この2種類は同じシャフト径にも関わらずウエサカの方がしなりやすく、ZHANGKONGについてはしなりにくいと競技者の間で知られており、近年では国際大会ではZHANGKONG、国内大会ではウエサカが使用されることが多いようです。
一般トレーニー・アスリート向け
一般トレーニーについてですが、BIG3が主なトレーニングとなる場合は、基本的には29mmのパワーバーがオススメになります。先述した通り、エリートパワーバーはステンレス製でメンテナンスフリーであることや、手触りが優しいことが推奨の理由になります。グリズリーパワーバーは硬質クロムとなるため錆への耐性はやや落ちますが、他のパワーバーと比較すると安価なためこちらもおすすめです。
一方でフィットネスクラブなどBIG3に限らず様々なトレーニングでの利用が考えられる場合は、カリフォルニアバーやトレーニングバーもおすすめです。
クイックリフトを行うトレーニー向け
アメリカンバーベル ー ステンレスプレシジョントレーニングバー
クイックリフトを行うトレーニーについては29mmのオリンピックシャフトでは行いにくいため、28mmのオリンピックシャフトを推奨します。こちらの製品についてはステンレス製でメンテナンスフリーであることが推奨理由になります。通常のトレーニングバーは硬質クロムとなりますが、49900円と安価なためこちらもおすすめです。
色にこだわりたいトレーニー向け
ホームジムユーザーさんあるいはジムオーナーさんには使用感以上に見た目にこだわりたいという方もいらっしゃると思います。そういう方におすすめなのがセラコートを用いた色とりどりのオリンピックシャフトです。これらの製品については緑、赤、青、ピンクなどの通常のオリンピックシャフトには見られないカラーのものがあります。オリンピックシャフトの色を明るい色のものにすることで、簡単に差し色を入れることができますので、ジムに個性を出したい方にはおすすめとなっています。

終わりに
今回はオリンピックシャフトの比較ポイントについて、ご紹介させていただきました。
オリンピックシャフトをこれからご購入される方は是非、この記事を参考に自身にとって最高の1本を選んでいただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。