ウキウキとした気持ちでカタログやホームページで、購入したい器具を探す。至福の時間であることは間違いない。しかし、こんな気持ちで器具選定をしている時点で、すでに「使えないジム」作りの始まり。終わりの始まりだ。

…こんなふうに指摘されたら、あなたはきっと憤るだろう。しかし紛れもない現実である。日本国内にあるジム施設の8割方が曖昧な計画でマシンや器具を選定し、全てが収まるようにレイアウトを考える。きっちり入ったことに安心し、いざ使ってみると非常に自由度が低く使い勝手が悪い。効率の悪いジム空間だから効果的なトレーニングが実施できない。

どれだけ優秀なS&Cコーチやパーソナルトレーナーが途中から合流しても、ジムそのものの課題を解決することは難しい。

彼らの多くは、着任してまずジムのレイアウト変更と使わないマシンや器具を排除することから始めるはずだ。これは即ち、「このジムは使いづらいんですよ」というジャッジメントに他ならない。

あなたもそんなジムを作りたくはないはずだ。…それならばどうすればいい?

答えは簡単だ。

トレーニングプログラムの基本である「漸進的過負荷の原則」のように、ジムレイアウトの原理原則をしっかり押さえるのだ。


…いささか刺激的な冒頭の文章になってしまった。私はコンディショニングコーチの弘田雄士と申します。プロ野球やラグビートップリーグなど、アスリートスポーツを中心としたスポーツ現場で働き20年目を迎えました。

偉そうなことを言っていますが、私自身今まで多くの失敗をしてきました。試行錯誤してきた私の一つの結論が、「徹底的にジムをどう活用するのかを考え抜いてから、必要なマシンや器具、サイズや個数を決めていく」ということ。

この部分を「何となく」決めてしまう人が本当に多いのです…!

長い記事ですが、このブログ記事を読んでいただくと、

  • 自分のコンセプトや対象となるペルソナに対して
  • いかに汎用性の高い空間で
  • 必要最低限で使用頻度の高いマシンや器具を選定し
  • 換気や安全面を考慮した施設を作れるか

具体的なイメージができるはずです。

「家は3回建てないと満足しない」

昔から受け継がれている言葉ですが、同じことを自分が管理するジムでできる余裕のある人はいないでしょう。

100点でなくてもいい。1回で「質が高く今後の変化に対応しうる微調整可能なジム」を作ること。

ここを目標にジムレイアウトの原理原則を学んでいきましょう。

目次
ジムの主な対象者及びコンセプト
– パーソナルジム
— 美容/ダイエット
— ボディメイク(サイズアップ・パンプ系)
— アスリート向け
– 民間スポーツジム
– 健康促進フィットネス
– 本格トレーニー向けジム
– 団体チーム用ジム
— コンタクトスポーツ
— ノンコンタクトスポーツ
ジムのレイアウトとスペース活用
– どんな使い方がメインか?
– どんな人達が使うのか?
– 最大何人ぐらいの使用が想定されるのか?
– 安全性は確保されているか?
— パワーラック・スクワットラックの位置
— フリースペースそのものも奥
— ダンベルラック・プレートラックの位置
— マシンの可動範囲はどこまでか
– 空間を確保できているか?
— 高さをまず確認せよ
— プレートのつけ外しに必要な空間
— 人の流れと出入りの動線を考慮せよ
— 換気や消毒が容易にできるか
— アレンジに対する柔軟性
— コレクティブドリル活用の頻度
トレーニングマシン/器具の選定
– 有酸素マシン vs 筋トレマシン
– 筋トレマシン vs フリーウエイト器具
– 本格器具 vs トレーニング小物
– トレーニングマシン/器具のデザイン
— ジムデザインの統一感
— メーカー統一のリスク
最後に
– 致命傷になる失敗をしないこと
– 開業した先輩の施設を回りアドバイスを聞こう
– ストレングスアジアに相談しよう
– ジムは常に進化する

ジムの主な対象者及びコンセプト

まず確認しておくべきことが、ジムを利用してもらう対象者とジムのコンセプトだ。もしもそもそもこの点がフワフワしているようならば、今すぐに腰を据えてしっかり決めよう。対象となるペルソナが決まらない限り、ジム作りは絶対に始められないからだ。

私なりに考える基本的なパターンを下記に列挙した。一つひとつを確認していこう。

パーソナルジム

パーソナルジム形態であれば、一般的には以下のような3つの区分けが考えられる。

美容/ダイエット

女性が中心となるカテゴリー。ヨガやピラティス、エアロビクスやボクササイズといったスタジオ系であれば、マシンはほとんど必要なく器具も最低限で済むだろう。その分、スペースや鏡、防音や衛生面での管理のしやすさがポイントとなる。

ダイエットを全面に押し出していくスタイルであれば、多くはマンツーマン形式になるだろう。そのうえで完璧に1v1で行うのか、少人数のサーキットスタイルを中心に行うのかで必要な器具やスペースは変わってくる。数の違いはあるが、パワーラック、バーベル、フラットベンチ、カーディオマシン、補強トレーニング用の小物が必要になる。

ボディメイク(サイズアップ・パンプ系)

筋肥大や美しい筋肉づくりがメインとなるカテゴリー。高重量を扱う必要があるため、オリンピックバーやダンベル、多くのプレートが必要。身体の各部位を局所的に鍛えることも多いため、背中・肩・胸・太もも・ふくらはぎ用などのマシンをできるだけ多く用意したい。

アスリート向け

筋力やパワー、競技力向上が目的となるカテゴリー。ボディメイクと大きく違う点は、パワー向上のための瞬発系種目を行うこと。安全にバーベルを落とせるプラットフォームや、バンパープレート、プライオボックスなどを備えておく必要がある。

また格闘技専門、野球専門といった尖った専門分野を持たなくとも、競技特性のある動作が確認できるスペースは必須。

民間スポーツジム

パーソナルジムと似ているが、中規模クラスとして民間ジムという考え方も必要だろう。チェーン展開するほどではないが、一度に20~30人程度が運動を行えるような施設は多い。

健康促進フィットネス

中年~高年齢者層をメインとした一般的なフィットネスジム。トレーニングで追い込みたい層というよりも、適度な運動を無理なく続けたい方を対象としているため、エアロバイクなどの有酸素マシンは多く入れたい。トレーニング中級者以上は多くないため、安全面やコスト面からフリーウエイトスペースは必要ないかもしれない。

本格トレーニー向けジム

イメージとしてはゴールドジム。民間で似たコンセプトを行う場合は、有酸素マシンは最小限でいい。まずは最大限のフリーウエイトスペースを確保し、安全面が確保できる範囲で補強マシンを設置していくイメージ。

団体チーム用ジム

次に団体スポーツチーム用のジムを考えていこう。社会人野球チームのトレーニングルームや、大学内の競技スポーツ用のトレーニングジムといったカテゴリーになる。

広さや高さ、予算などにより選択肢は違ってくるが、大きく理解しておくべき点は、接触型であるコンタクトスポーツか、非接触型であるノンコンタクトスポーツどちらをターゲットにした施設であるかだ。

コンタクトスポーツ

アメリカンフットボールやラグビー、バスケットボールやサッカーといったスポーツを対象としたもの。怪我の多い競技特性を加味して通常のオリンピックバーだけでなく、ヘックスバーセーフティスクワットバーといったアレンジの効く器具を導入しておきたい。

また水平面のプッシュや加速が強調される局面も多い。スレッド(ソリ)を設置し実施できる、レジスタンスバンドを利用したレッグドライブを行えるスペースも可能であれば確保すべき。

トレーニングマシン選定の優先順位は重篤な怪我予防の観点から、フリーウエイトだけでは獲得するのが難しい背中や肩のマシンからが基本となる。

ノンコンタクトスポーツ

野球や陸上競技のようなノンコンタクトスポーツでは、基本的なフリーウエイト器具と共にスミスマシンやケーブルマシン、細分化されたレジスタンスバンドなどの使用頻度が高い。トレーニングマシン選定では下半身の疲労ストレスを軽減させるレッグプレスやレッグエクステンションなどを優先させよう。

ジムのレイアウトとスペース活用

ジムのコンセプト、主たる利用者と用途。ここがしっかりと定まったなら、次はレイアウトとスペース活用について考えていこう。多岐に渡る項目をどれだけ深堀りしておけるかが「実践的で汎用性が高く使いやすいジム」を完成させるための鍵となる。改めて確認しておくべきことを以下に列挙した。

どんな使い方がメインか?

まず、全ての要素を詰め込んだ施設を目指すべきではない。アメリカやヨーロッパの限られた巨大施設でない限り「なんでもできるジム」は「何もかもが中途半端なジム」になってしまう。

ストレングスマシンを中心とした個別の部位へアプローチした筋力トレーニング。有酸素マシンを中心としたフィットネス系の空間。フリーウエイトでのクイックリフトや高重量エクササイズを中心とした本格的なストレングススペース。

限られた空間や予算を一点集中し、改めてこれから作るジムの使い方を絞ろう。

どんな人達が使うのか?

ジムを利用する人は男性、女性、どちらの比率が多いか。

実際に使用する年齢層は10~70代、どの層が最も大きなボリュームゾーンか。

利用者のトレーニング熟達度は、初心者、初級者、中級者、上級者、どのカテゴリーが最も多いか。

ペルソナとする対象層によって優先すべきトレーニングマシン/器具は大きく変わってくる。

例えば、

  • 初級者レベルの女性を想定→垂直方向のプル種目として懸垂の実施は難しい→ラットプルマシンを用意
  • 中級者以上の男性を想定→通常の背中種目だけでは筋肥大の追い込みが難しい→プレートロードタイプのラテラルロウマシンを用意
  • 様々なレベルはいるが10~20代が中心→ケガを考慮せずガンガン行う可能性が高い→効果が見込め、ケガリスクが低いベンチプル台を準備

同じ背中を鍛える器具やマシンを用意する場合でも、想定する利用者によって、選定基準が変わるのが理解してもらえるはずだ。

どんな人が使うジムになるのか、きちんと定義しよう。

最大何人ぐらいの使用が想定されるのか?

スペースに関しては、対象となる利用者に合わせて広げる、ということは現実的ではないだろう。国内においては最初の時点で、空間的な問題は既に決まっていることがほとんどだ。

だからこそ、その場所において最大何人まで使用するのか、使用させたいのか、という想定をしておかなくてはいけない。

広さ30坪ほどのジム空間にも関わらず、15名以上の利用者を見込んでいる場合を考えてみよう。

ストレングスマシンを多く並べるスタイルでは、トレーニングのバリエーションは狭まってしまう。しかし利用頻度の高いレッグプレスやチェストプレスマシンが1台ずつしかなければ、待ち時間ばかりが増えてしまう。

このケースでは、ストレングスマシンの数を最小限に抑えて、パワーラックを複数台準備するのが有効だ。トレーニングを実施する範囲を制限し安全面を確保しつつ、ラック周りで同時に2名が異なったエクササイズを実施できるようにする、などの想定をジム作りの段階で仕込んでおく必要があるわけだ。

これから作るジムにおいて、どんなプログラム処方がなされていくのかもイメージしつつ、実践的かつ現実的な最大利用者数をシュミレーションしておこう。

安全性は確保されているか?

使い方や利用者の特徴、そして利用者の人数。具体的にイメージが固まってきただろうか。徐々にクリアになってきたら、絶対に忘れないように頭に留めておくべき要素が「安全にトレーニングできるようにする」という点。

安全面が担保されていないと、せっかくの施設でけが人が出たり、利用者同士のトラブルの原因となってしまう。最悪のケース、訴訟につながるというケースもあり得るのだ。

今回は特にフリーウエイトスペースを作る場合の注意点を中心に、ジム施設における安全面で考慮すべきことを挙げていこう。

パワーラック・スクワットラックの位置

Dragon’s Lair Gym(https://www.thedragonslairgym.com/)より引用

これから作り込むジムに、パワーラックやスクワットラックを用意する予定になっているならば、ラック達の置き場所を最初に決めてしまおう。

基本は「一番奥の一番端っこ」。あなたの施設の入り口から一番遠いところにセッティングしてほしい。

フリーウエイトを実施できるトレーニング施設で、最もケガや事故に繋がりやすい場所は、残念ながらパワーラック付近だからだ。

高重量のスクワットやデッドリフトを行うため、急性腰痛や膝を痛めるということもある。しかしそれよりも多いのが、プレートの付け替えやバーの出し入れでの接触事故

人の行き来や動きが最も少ない場所に設置するのが賢明である。

フリーウエイトに慣れている熟練者にとっても、パワーラックの位置が施設の手前にあるのは、ものすごく不安なものだ。1回挙上できるかどうかにチャレンジしている真後ろを、他人がスーッと通っていく環境では安心してトレーニングで追い込むことはできない。

ラックの位置は一番奥、一番端。このセオリーはまず覚えておこう。

フリースペースそのものも奥

ラックのレイアウトを最初に言及したが、奥に設置したパワーラックの付近、奥のゾーンにフリースペースを準備しよう。アジャスタブルベンチや、ベンチプレス台などは奥に並べるようにする、ということだ。

種目により、さまざまな動きを伴うフリーウエイト。接触する可能性は、ストレングスマシンや有酸素マシンなどとは比べ物にならないほど高い。

またフリーウエイトをメインで実施する利用者は、総じてトレーニング初級者以上が多いため、扱う重量も重い傾向にある。

やはりフリースペースそのものを奥に準備する必要があるのだ。

ダンベルラック・プレートラックの位置

日本大学ウェブサイト(https://www.nihon-u.ac.jp/)より引用

安全面に考慮しつつも、経験値やアレンジ力が発揮されるのが、ダンベルラックやプレートラックの位置だ。

利用するスペースとの距離が近いことは必須条件だが、必ずしも一番奥にピタッと置く必要はない。

ダンベルラックは、奥の空間を「区切る」、低い壁のように設置することができる。プレートラックは敢えて狭めの移動スペースの中央に置くなどして、省エネかつ360°どこからでも取り出せるようにするといいだろう。

場所を取り、かさばりがちなラックだからこそ、無駄なく効率的なレイアウトを考えられると、空間の見栄えや玄人感を演出できるのだ。

マシンの可動範囲はどこまでか

安全面を語る上で最後に言及しておきたいのが、種目アレンジの多いマシンの可動範囲を考慮してほしい点。

スミスマシンやケーブルマシンでは、様々な利用ができるため、当初考えていた以上にスペースを使うことがほとんどだ。

毎回、最大限のスペースを使うわけではないが、いざ自由度の高いエクササイズを実施しよう、と取り組むと全くスペースが足らず、横の機器とぶつかってしまう…。

笑い話にもならないこんなケースは、枚挙にいとまがない。可動範囲が大きく、自由度の高いマシンに関しては、施設側が想定しているエクササイズアレンジだけでなく、最大限の利用パターンを考えておこう。

空間を確保できているか?

安全面を考えていくと、改めてミリ単位で考えるべきなのは空間確保。施設を作る側からすると、安全に最大限配慮しつつ、デッドスペースは絶対に作りたくないはず。

確実に配慮しておきたいポイントを見ていこう。

高さをまず確認せよ

空間確保を考えるとき、最初に確認するべきなのが「高さ」。幅や奥行きは調整可能なケースがあるが、高さだけはどうにもならないからだ。

ボックスステップアップのように、高さを出しつつジャンプをするような種目を想定していたり、パワーラックや懸垂マシンを置く場合はそのエリアの高さとしては3Mは欲しい。

前述したように、ジム施設を作る際、空間そのものはある程度条件が決まっているケースのほうが多いだろう。

しかしもし場所や空間の選定から関われる場合、まず高さの確認を忘れないようにしてほしい。

トレーニングジム作りを一から経験したことの少ない人ほど、「高さ」の重要性を忘れてしまいがちだからだ。

プレートのつけ外しに必要な空間

フリーウエイトを中心としたジム作りを考えているならば、「プレートのつけ外しに必要な空間」を忘れずに見積もっておこう。

プレートローデッドタイプのレッグプレスマシンなどは高重量で用いる人が多く、20kgプレートを複数枚利用する。

この出し入れのスペースがほとんどないがために、トレーニングそのものでなく、付け替えに四苦八苦するような施設は意外と多いものだ。

隣接しているパワーラックで、隣の人がプレートを付け替えるまで、じっと待たなくてはいけないようなレイアウトは、都心部のコインパーキングのようなもの。

あまりにも無理やり入れ込んだ感があると、大多数の人はそのエリアを利用しなくなってしまう。

本末転倒な結果にならないよう、最初からつけ外しに必要であろう幅を確認しておこう。

人の流れと出入りの動線を考慮せよ

効率的なトレーニング運営のために、気をつけておきたいのが動線だ。

まず動きの流れを考慮しておきたい。例えば、トレーニングプログラムを実施しようとしたところ、

  • 施設の右手前で最初の種目を実施→奥のスペースで2種目めを→左側の手前へ移動して3種目め…

こんな施設はトレーニングのフローに対する動線作りという視点が足りない。

前述したように、高重量で扱いプログラムの序盤で行うことの多いフリーウエイト系は一番奥へ。

奥の空間であっても右側は下半身寄りのエリア、左側は上半身寄りのエリアのようにプログラムを実施するのに、可能な限り無駄なく移動できるような動線づくりを心がけてほしい。

そしてもう一つ考えておくべきポイントは、人の出入りに対する動線だ。

一番多くの人が行き来をする施設の入口付近は広めに、奥に行くにつれて移動に必要なスペースは狭くしていけばいい。

エアロバイクのような有酸素マシンや、レッグカールのようなストレングスマシンを複数台置く場合は、自然と右側から出入りするように設置する。左側は壁ギリギリに置き右側に30cmほどスペースを作る、といった細かいところまで最初に設定しておこう。

換気や消毒が容易にできるか

ジムを衛生的に長く使用できるかどうかも大切な要素だ。洗濯をすることができず、多数の人と器具やマシンを共有するからこそ、換気と消毒のしやすいジムにしておくことが必要となる。

以前から考慮すべき要素ではあったが、2020年以降、特に重要視されるようになった要素でもある。新型コロナウイルス拡大以降、継続的な換気、こまめな消毒は必須だからだ。

レイアウトに制限は出てしまうが、窓がある場所は絶対につぶさないようにしよう。

そしていくつか選択肢がある場合は、

  • 有酸素エリア
  • ダンベルラックエリア

を優先的に窓の近くに設置すべきだろう。有酸素エリアでは飛沫感染リスクが高まりやすく、ダンベルラックエリアでは器具の共有率が他のエリアよりも圧倒的に高いからだ。

恒常的な換気を徹底しつつ、特にこの2つのエリアでは徹底的な消毒を行おう。

アレンジに対する柔軟性

施設内にて状況に応じてアレンジする必要があるかも事前に整理しておきたい。基本的には同じような利用法で、マシンや機器のレイアウトが変わらないのであれば問題ない。

だが例えば、

  • チーム利用をする場合に雨天にて屋外練習ができずに施設内でサーキットトレーニングを行う
  • グループで利用しストロングマンサーキット(パワー系の種目を数種類連続で行っていくもの)を行うことがある
  • 定期的にセミナーやイベント開催の会場となることがある

こんなケースが想定されるのであれば、空間をアレンジできやすいように当初から設計しておく必要がある。

フリーウエイトであれば、インクラインベンチやプライオボックス。マシンであればローイングやエアロバイクなど、軽量で動かしやすいものを移動させることで、スペースを広げることができるように前もって設計しておこう。

ゼロから施設を作れる場合は、電源を入れるコンセントの位置も無駄ない効果的な場所に設置したい。既存の空間を利用する場合であれば、窓同様にコンセントが死なない配置を工夫すべきだ。

施設内の一部分でいいので、縦1メートル、幅1.8メートル程度のスペースを作れるようにしておくのも大切だ。プロジェクターを利用して画面を出す際に最低限必要なスペースを確保できるように配慮しておくといいだろう。

コレクティブドリル活用の頻度

施設の方針によっては、コレクティブドリル(身体の機能を回復させ活性化させるもの)を多く活用するケースもあるだろう。その場合も空間全体の四つ角の少なくとも1つは「コンディショニングスペース」として用意すべきだろう。

そのエリアの条件として挙げられるのは、

  • 活用できる壁がある
  • 豊富なトレーニングアイテム
  • 汎用性の高いフロアアレンジ

背中をもたれさせたり、両手で支えたりと、壁が必要なドリルは多い。安定して壁が使えるようにしておくことは大切だ。

ストレッチポールやループバンド、フォームローラーやスライドボードなど、コレクティブドリルには必要となるギアも多い。場所を取りすぎずに効率的な収納を心がけつつ、必要な器具をまとめておこう。

このエリアには衝撃を吸収するようなトレーニングマットは必要ない。段差のないフローリング素材の床にしておくことをオススメする。最も汎用性が高いからだ。寝転がるストレッチ系の種目のためのやや厚手のストレッチマットを必要枚数用意しておけば、必要なクライアントはそれを敷けば事足りる。

トレーニングマシン/器具の選定

それではいよいよトレーニングマシン/器具の選定について考えていこう。逆に言えば、レイアウトとスペース活用の段階を熟考するまで、機材について具体的に考えるべきではない。コンセプトや主たる利用対象、利用方法などを定めることなしに機材は決められないからだ。

くれぐれも「お気に入りの○○という器具がスペースに入らないために、考えていたレイアウトを変えた」という本末転倒な決断に至らないように。

この項では、今まで考えてきた要素を踏まえた上で、トレーニングマシン/器具選定の基準となる考え方を示していこう。

有酸素マシン vs 筋トレマシン

二者択一で迷ったとしたら、有酸素マシンを選ぼう。当然コンセプトやメインとなる利用者層にはよるが、最も大きな理由は「有酸素運動の代替運動を常に用意するのは難しい」点だ。筋トレマシンに関しては、ダンベルやチューブなどがあれば、マシンでなくても可能なケースが多い。代替できるかどうか、という視点から判断するべきだ。

筋トレマシン vs フリーウエイト器具

この二者択一も上記同様だ。基本はフリーウエイト器具を選ぶべきである。代替可能なものがほとんどであり、一般的にマシンよりも安価だからだ。例外は「そのマシンでなければいけない理由がある」ケース。例えばリハビリを全面に打ち出す施設であれば、レッグプレスやレッグエクステンションは固定した状態で行えるものとして優先順位は高くなるだろう。

本格器具 vs トレーニング小物

☓☓という種目でなければいけない!というケースは、現実的にはほとんどない。既存のものとトレーニング小物で代替可能なようであれば、低リスクの選択をすべきだろう。

この記事にて今まで考えてきた要素を考慮してなお、この二者間で迷っているのだといたら、トレーニング小物を優先したほうがいい。シンプルにリスクが低いからだ。本格器具は総じてコスト面で高くなりやすく、活用方法も限定的になるものが多い。

トレーニングマシン/器具のデザイン

最優先すべきではないが、やはりこだわりたいのがデザイン。利用者側にしても「ここでトレーニングをしたら気持ちが上がるなぁ…!」といった施設のほうが利用したくなるし、総じて評価も上がるからだ。

デザインを考えるうえでのポイントをいくつか挙げていこう。

ジムデザインの統一感

デザインを考える場合、最も大事なことは統一感だろう。そしてこの統一感の根幹をなすのはレイアウトだ。想像してみよう。

圧迫感のあり高重量を扱うことの多いパワーラックなどは施設の奥、端から並ぶ。左側にはコンパクトながら整然と有酸素マシンが数台。近くには換気に必要な窓がある。その手前にはあらゆるコレクティブドリルが可能なスペースがあり、多種多様なトレーニングギアがコンパクトにまとめられている。右側のエリアには奥側に下半身のプレートロードタイプのマシンやレッグプレス。右手前側にはピタッとはまるように、無駄なく上半身メインのマシンたちが並ぶ。奥側の中央には絶妙な配置でダンベルラックがあり、安心してフリーウエイトを行える空間がさり気なく区切られている。移動を邪魔しない程度に、どの位置からも手の届きやすいプレートツリーが配置されている。入口付近の動線は広めに取られており、利用者がストレスなくそれぞれのトレーニングを円滑に行っている…

どうだろうか?

こんな施設はおしゃれに、クールに見えるものだ。施設全体のレイアウトに、確たる意図やコンセプトがあることが、全体の統一感を生むからだ。だから安心してほしい。まずは今まで述べてきた項目を一つずつクリアにしていき決めていくことだ。結果的に自然と統一感のあるレイアウトとなり、色気のある雰囲気を醸し出すことができる。

ここがクリアできたのであれば、残りは微調整だ。

それぞれのトレーニングマシンや器具の色合いが全てバラバラでは、減点材料となってしまう。施設のコンセプトに合わせて差し色の赤にする。チームカラーのブルーをワンポイントに入れる。出費はやや増えるが、ダンベルやバーベルのポイント変更などオプション設定を利用しよう。微差が大差となって施設の雰囲気に大きく反映されるはずだ。

メーカー統一のリスク

レイアウトでの統一感には自信がある。その上で見た目を統一していくのであれば、間違いないのは購入するメーカーを統一することなのではないか?

そんな考えを持つ人も多いかもしれない。あながち間違った考え方ではない。しかしよく考えてみよう。

メーカー選定で最優先すべきは機能性だ。どれだけ使いやすく、故障が少ないか。そして当然ながら、メーカーによって得意分野は異なる。

プレートロードタイプのマシン作りが得意なメーカーもあれば、有酸素マシンが強みなメーカー、オリンピックバーに定評のあるメーカーもある。

潤沢な予算があり上限がない状況で、ジムづくりができるケースはほとんどない。限られた予算で最高のジムに近づけるためにも、各メーカーの強みを生かすことを考えたほうが得策だろう。

トレーニングマシンの選定については以下の記事が参考になるため参考にしてみてほしい。

トレーニングマシンの種類と使い方 – ジム向け業務用マシンを全解説

最後に

長かった私の投稿もようやく終わりが近づいてきた。ここまでお付き合いいただいたあなたに感謝したい。お礼の気持を込めて、私からあなたへまとめとしてのアドバイスを送らせてほしい。

致命傷になる失敗をしないこと

まずはこれだ。「二度とジムづくりなんてするものか」とトラウマになってしまうような致命傷は絶対に避けること。そのために、典型的な最大の失敗パターンを1つ教えよう。

「不良債権となる大型器具を入れること」、これだ。

見栄えが良く、その割に安価で買えるケーブルスミスマシンなどはその典型だ。購入して設置してみると、滑りが悪い。故障が多い。そのくせ利用者は多く混雑しているから、いつもクレームが絶えない。大きく場所を占めており、撤去するにも多くの費用を要する。

こういったパターンの失敗は絶対に避けるべきだ。たまたま例に挙げたが、決してケーブルマシンは入れるべきではない、といった事を伝えたいわけではない。コンセプトや対象となる利用者、レイアウトや機能性。これらをしっかり吟味した上で、設置を決めようということだ。

あくまでも私の経験論にはなるが、0ベースからジムを創っていくのであれば、「入れすぎよりも少ないぐらい」がちょうどいい。

絶対に成功する方法はないが、こっぴどく負けない戦いにすることは誰にでもできる。それは典型的な失敗のパターンを丁寧に潰しておくことだ。

開業した先輩の施設を回りアドバイスを聞こう

誰もが行うことだろうが、既に開業している先輩や、ジムを作った経験のある先輩の施設を見学しアドバイスをもらうことは有益だ。

この際、ぜひ心がけていただきたいことが2点ある。1つは「成功談ではなく失敗談を聞く」こと。そしてもう1つは「先入観なくそのジムを利用したつもりでダメ出しポイントを挙げてみる」ことだ。

往々にして経験者は上手くいったことしか話したがらない。見栄もあるし、できれば失敗については言及したくないからだ。しかし私達が最も多くの実りを得られるのは、先人たちの失敗からである。

「今、成功されているからこそ、『これはやっちゃったなぁ…』と思うことや、後悔しているポイントはありますか?」

相手のプライドをくすぐるような聞き方を心がけつつ、核心に迫ろう。

施設見学を続けていると、その行為そのものに満足してしまう人が多い傾向がある。私自身、同じ日に2つ以上の施設見学は行わないようにしている。新鮮な気づきが出づらいからだ。

だからこそ2つ目のポイント、「先入観なくそのジムを利用したつもりでダメ出しポイントを挙げる」を意識してほしい。

「あれ、なんでこの位置にラットプルダウンマシンがあるの?」

「あのプリチャーカール台、絶対に斜め前に置いたほうが効率的だよな」

この際、気をつけてほしいのは正解思考に陥らないということ。究極、ジムデザインに決まりきった正解はない。オーナーや利用者にとって、相応の納得解があるのであれば、それでいい。「~べき!」という考えで凝り固まってしまった施設は、どこか魅力がなくなってしまうから要注意だ。

それでもこういった視点こそ、あなたのトレーニングジムのデザイン力をアップさせる最高の練習となる。

ご好意で見学させていただいた先輩の前で、絶対に口に出さないようにだけ気をつけて、最低3つのダメ出しポイントをメモして帰ってこよう。

ストレングスアジアに相談しよう

トレーニングジム作りは奥が深い。経験値がものをいう部分も大きい。もしこの記事を読んで「一度話を聞いてみたいなぁ…」と感じてもらえるようであれば、ぜひストレングスアジアまで問い合わせて欲しい。

スタッフは器具に関しての知識は一流であるし、セールスのためにマイナスポイントやデメリットを隠すということは絶対にしない。アンバサダーには個人ジムを実際に経験している栗原弘教氏齊藤敬太氏がいる。彼らは自身もアスリートしてパワーリフティングに従事している。

私は多くのジム施設のレイアウト作りに関わり、2019年には国内最大級の大学トレーニング施設、日本大学の稲城パフォーマンスセンターのデザインやレイアウトを管轄した。

マシン/器具のプロ、パーソナルジムのプロ、スポーツ現場のプロが揃っているわけだ。プロフェッショナルな知識・経験を持つ人達を活用するのも賢い方法である。

どこから手をつけていいか、どう考えていけばいいか、考えすぎてわからなくなってしまった…。そんな人にとっては、叩き台となるイメージをつかむこともできるだろう。

ジムは常に進化する

トレーニングジム施設は生き物だ。日々呼吸をし代謝する場所になる。常に進化させていくんだ、という意志を持ってほしい。何よりあなた自身が毎日うっとりするような場所にしよう。

1年前、半年前、1ヶ月前よりも魅力的で使いやすい場所へ。トレーニングジムは作って終了ではない。むしろそこからがようやくスタート。「始まりの終わり」なのだ。

あなたがいいスタート地点から走り始めるのに、この記事が少しでも役立つことを心より願って、長い記事を終わりにしよう。

この記事を書いた人

弘田 雄士

スポーツトレーナー。千葉ロッテ/近鉄ライナーズ/渡辺俊介パーソナルトレーナー歴任。現清水建設ブルーシャークス・日大IPCにてトレーニング指導中。アスリートのパフォーマンスアップをサポートし20年目。

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